生の欲望

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生物って何でもそうですけど、「自らを守り、自らの遺伝子を守るために生きている」と言えますよね?

例えば植物とかは、自分達が生きるために環境の変化に耐えられるようになったり、子孫を残すために種子を遠くに飛ばすようになったりします。また動物なんかも、目や耳や鼻を発達させることによって敵から逃れたり獲物を捕らえたりするし、自分の遺伝子を後世に残すために戦ったり頭を使ったりします。

どんな生物も本能的に生命を維持しようとするし、自分達の種族を守ろうとします。

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どんな生物も「生の欲望」がある

これって人間にも同じことが言えますよね?

自律神経や反射神経が発達したのも自分の身を守るためだろうし、ほかにも、狩猟のための知恵を絞ったり、農耕のための技術を覚えたり、家をつくったり、食料確保のための流通をつくったり、さらには社会をつくって、文明をもつくりました。

これらはすべて自分を守り、自分の家族を守り、自分の遺伝子を守るためのものですよね。

つまりはどんな生物も「自らを守り、種族を残すために生きよう!」という欲望を、誰に教わるわけでもなく、生まれながらにして持っているということです。どんな生物でも「自分を守りたいし、自分の遺伝子を守りたい」つまりは「生きたい!」ということなんですね。

人間は生き方にさえ欲望がある

そんな誰もが持っている欲望に加えて、人間は精神活動が与えられたおかげで、自分の生き方を考えられるようになりました。

他の生物がただ単に「生きたい!」と思うところを、人間は「こうやって生きたい!、より良く生きたい!」と考えることができるようになったのです。

つまりは自らの生き方にさえも欲望を持つことができるようになったのです。

動物は無意識に、自らを守り、自らの種族を守るための強い欲望を持つようになりましたが、その上に人間は自らのの生き方に対する反省をしつつ、より良い生き方を模索し実現していこうとする欲望を持つようになったのです。

成長の過程で変わっていく「生の欲望」

このような「人間が生きるための欲望」を森田療法では「生の欲望」と呼びます。人間は全員生まれた時から「生の欲望」を持っています。

しかし「生の欲望」は人間一人一人によってカタチが違うんです。

なぜなら人間が成長していく過程で「生の欲望」のカタチが変わっていくからです。

また「生の欲望」は二面性、「人間がより良く生きようとする向上的、発展的な欲望であるという一面と、「生」を求めるがゆえに「死」を嫌い恐れる、「死」から逃れようとする一面」があるので、やはり成長の過程でひとそれぞれだいぶカタチが変わってくるのです。

パニック障害を患う人は「生の欲望」が強い?

パニック障害を含む神経症(パニック障害は以前は不安神経症と呼ばれていました。)の方はこの「生の欲望」がひとよりも強いと考えられています。

神経症の方は理想や自己実現を求めようとする反面、「生」への執着が強く、病気や「死」をひどく恐れ、病気や「死」を恐れるがゆえに自分の体に必要以上に気を使う状態になってしまう可能性が高いのです。

生命維持に関する欲望も「生の欲望」

他にも人間には欲望があります。人間が持つ欲の基本は「生の欲望」です。健康でいたい、いい家に住みたい、おいしいものが食べたい、などの衣・食・住に関する願望、安心・安全に暮らしたいという願望を人間なら誰でも持っていますよね。

これらは生命維持に関する欲望なので「生の欲望」に入ります。

「性」の欲望

「生の欲望」のほかに、人間は快楽に伴う欲望、「性」に関する欲望も持っています。

他の動物とは違い、人間は独自の性習慣を身に付け、快楽のためのみに「性」の欲望を追求しました。

また「性」の欲望に突き動かされて芸術性や創造性を発達させ、人間の成長に大きな影響を与えました。逆に「性」の欲望によって悩みや苦しみを負うことも多くなりました。

「向上」の欲望

さらに人間は、人間ならではの欲望を持っています。少し先述しましたが、自ら「こうありたい」「こうあるべきだ」と願う「向上」に関する欲望です。

自らがどう生きたらよいか考えながら生きているのは人間だけですよね。他の動物にはこのような欲望はありません。

この欲望があるからこそ人間世界には倫理・道徳・規律などがあり、さらには宗教があり、自らを省みるのです。人間はこの欲望によって人間らしくなるのですが、同時にさまざまな苦悩を負う原因にもなり得るのです。

「生の欲望」の二面性

さらに人間の欲望を具体的に考えてみると、人間の「生の欲望」は必ずしも真なるもの、善なるもの、美なるものに満たされているわけではないことがわかります。

真に対して偽があり、善に対して悪があり、美に対して醜がある、この相反する欲望を人間は同時に心の中に持っているのです。

もっと簡単に言っちゃえば、心が真っっ白な人なんかいないし、善だけでできた人もいない、ってことです。

誰だって心の隅には黒い部分があるし、悪いことを考えちゃう時だってあるし、嘘を言ったり陰口を言ったりいじわるする時だってあるし、人の不幸を笑うことだってあるし、悪いことに興味を持つことだってある、ということです。

誰だって胸に手を当てて考えなくても、こういうこと考えたり思ったりやったことってありますよね?

要するに偽なるもの、悪なるもの、醜なるものが心の中に存在しないという人間なんていないんです。これが「生の欲望」の二面性であり、相反する欲望が同時に存在することが人間の欲望の真実と言えます。

良い欲望だけでは人間らしくない

ですが、パニック障害を含む神経症の方は、良い欲望だけを求めて、悪い欲望を否定して除去しようとする傾向があります。

良い欲望だけになることは何となく良さそうな気もしますが、人間の欲望の真実を認めない偏った考えと言えます。

それに欲望に良いも悪いもないわけですし、よい欲望だけ満たそうとするなんて、逆に人間らしくなくなってしまいますよね。悪い欲望も含めて人間なのです。

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